切削加工例① 高硬度材料の切削加工
硬度が高すぎて従来、旋削加工は不可能と考えられてきた無段階変速機の部品であるクロムモリブデン鋼製のプーリーの斜面部を短時間の旋削加工で鏡面化できた。
無段階自動変速機の主要部品であるクロムモリブデン鋼製のプーリーの斜面部は、厚さ0.4mm、硬度58~62HRCの浸炭焼き入れ層をもち、非常に硬度が高いため,従来旋削加工は不可能と考えられていました。われわれSiCツールズが実際にcBN(立方晶窒化ホウ素)工具をつかって旋削してみると、高熱が生じ刃先は短時間で磨耗してしまい、旋削加工は不可能でした。こうしたことから現状では研削加工による仕上げ加工が不可避であり、非常に長い加工時間と複雑な研削設備環境を要していました。
ところが当社が独自に開発したSiC単結晶チップを使用して旋削加工テストを実施した結果、旋削が可能であっただけでなく、仕上げ加工の不要な鏡面状態に仕上がることが確認されました。切り屑は繋がっており、加工歪みのない安定した切削がおこなわれたことを示しました。
<切削加工テストの内容>
材料:クロムモリブデン鋼(SCM420H) 斜面部、浸炭焼き入れ層0.4mm(硬度58~62HRC)
加工部分:斜面部
加工方法:旋削加工
切削条件: 切削速度=120m/min(一定 )
送り=0.08mm/rev
切込み深さ=0.2mm
図1-1 上記の条件でSiC単結晶チップによる高硬度材料の切削を行いました。
図1-1
写真1-1 切削前のクロムモリブデン鋼(SCM420H)製動力伝達用プーリー。
写真1-1
写真1-2 加工後の動力伝達用プーリー。浸炭焼き入れ層0.4mm(硬度58~62HRC)の斜面部をSiC単結晶チップで旋削加工しました。SiC単結晶チップの旋削加工で斜面部は仕上げ加工の不要な鏡面状態に仕上がりました。
写真1-2
写真1-3 切り屑は繋がっており、加工歪みのない安定した切削がおこなわれたことを示しました。
写真1-3
切削加工例② チタン合金の切削加工
航空機部品材料のβチタンを旋削加工した。加工面精度は超硬チップ加工面と比べて良好であった。またシンクロトロンによるXRD測定を行った結果、加工表面及び深部への格子歪が従来工具より、大幅に小さいことが判明した。
当社が独自に開発したSiC単結晶チップを使用して典型的な難削材である航空機部品材料のβチタンを旋削加工しました。SiC単結晶チップによる加工面は超硬チップによる加工面と比べて加工面精度が良好であることが電子顕微鏡による写真からも確認できました。
一方、切り屑は切り込み量0.01mmに対応した極細の繊維状につながって排出され、加工歪みがほとんどないことが確認できました。従来、チタンを繊維状にすると酸化によって発火してしまいました。これは加工歪みによって内部に侵入した酸素とチタンが反応して発火すると考えられています。SiC単結晶チップによる旋削加工によって生じた切りくずが安定して極細の繊維状となったことから、加工歪みがほとんど生じていないと判断できます。
加工面の歪みを測定するため、シンクロトロンによるXRD測定を行った結果、加工表面及び深部への格子歪が従来工具より、大幅に小さいことが判明しました。
<切削加工テストの内容>
材料:βチタン
加工方法:旋削加工
切削条件: 切削速度=100m/min
送り=0.1mm/rev
切込み深さ=0.01mm
写真2-1 Ⓐ
写真2-2 Ⓑ
上記の条件でβチタンを旋削加工しました。切り屑は糸状に繋がっています。(Ⓐ)
SiC単結晶チップで切削したβチタンの加工面。加工面精度は超硬チップ加工面と比べて良好でした。(Ⓑ)
切削加工例③ 樹脂部品の切削加工
透明アクリルを旋削加工したところ、仕上げ研磨工程なしで鏡面加工が可能になった。
従来樹脂部品の精密な切削加工はダイヤモンド単結晶工具でおこなわれてきました。試しにSiC単結晶チップを使用して透明アクリルを旋削加工したところ、良好な結果が得られました。通常アクリル加工では仕上げ研磨などによる鏡面加工の工程が不可欠ですが、この試行では刃物送りに応じた鏡面加工が実現しています。
写真3-1 SiC単結晶チップを使用して透明アクリルを旋削加工した。
写真3-1
写真3-2 右のSiC単結晶チップを使用して透明アクリルを旋削加工したところ鏡面になった。
写真3-2
切削加工例④ コンタクトレンズ同等材料の切削加工
コンタクトレンズメーカーの協力で実用化に向けて切削テストをおこなったところ、ダイヤモンド単結晶工具と同等の切削精度が得られることがわかった。
<切削加工テストの内容>
材料:コンタクトレンズ同等材料。直径14mm 高さ8mmの円柱
切削条件: ダイヤモンド単結晶バイトと同様
写真4-1 切削開始直後からダイヤモンド単結晶バイトと同等の切削面が出てきており、切削速度を上げていった結果、ダイヤモンド単結晶バイトと同じ速度で切削することができた。
写真4-1
今後も切削実験の都度結果を掲載致します。